昨年12月、ニールセン社が公表した数字によるとスマートフォン(多機能携帯電話)の個人保有率は10月の時点で約33%である。前年同期から見ると10%も急伸しているらしい。この数値はメーカーの業績をも大きく左右している。勝組は市場拡大の波に乗ったソニーと東芝であり、スマホ販売が不振だった富士通とNECは苦戦を強いられていると聞く。
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一方、10万人の中高生を対象とした調査結果からは推計51万8千人の中高校生がネット依存症に罹っていると見られている。女子高校生にあっては、休日の5時間以上をスマホの使用に費やしているらしい。
私が家内と駅ビルの中にあるレストランに入った時である。私たちに続いて、隣の席に四人の親子連れが席に着いた。ご両親に連れられた中高生とおぼしき二人の子供たちは、着席するなりスマホの画面から目を離すことなく、食事を終えて帰って行った。私は最後まで二人の子供たちの声、親子の会話を耳にすることはなかった。寒々として味気ない、静かな家族というものを垣間見ることができたようである。現代日本はどこか病んでいるように思える。アナログ人間である私は、詳しいことはわからないが、スマホにはラインというものがあるらしい。メールより早いスピードで仲間に送信が出来るとのことである。更に驚くことにはメールを送った相手がその内容を読むと、送った人のスマホには「既読」の文字が表示されるのである。ここからが怖いところである。メールの受信者は直ちに返事を出さないと、既読無視と見做され人間関係に摩擦が生ずるのである。「何で返事をくれないの?」「何で返事が来ないんだ!」
こんなことが日常茶飯事に行われると、人間たるもの四六時中肌身離さずスマホを持っていないと不安になる。おちおち夜もゆっくり寝ていられない。赤提灯に行っても、酔っ払ってはいられない。やはり現代日本はどこか病んでいる。
「満16歳未満の者のインターネット接続可能な携帯音声通信機器の契約、購入、所持、使用を禁ず」と言った法律をつくるべく、親権者、事業者、政治家にメッセージを送り、このメッセージが反故にされないために携帯電話の中にプラスティック爆弾を仕込み、スイッチを入れるとその携帯電話が爆発するという細工をして世間を注目させた脅迫事件を扱った小説があった。(てのひらに爆弾を・黒武 洋)どこか共感を覚える小説であった。私は読み損ねてしまったが、ジャーナリストの上杉隆さんは「さらば『ツイッター』!SNSが日本を蝕む」という記事を週刊新潮に掲載されたという。便利なスマホが凶器になっており、現代人のストレスの発生原因となっている。アンダーグランドで陰口を言ってみたり、気に入らない発言者には問答無用で罵倒雑言を浴びせる匿名ユーザーが多く見られる。まさに現代IT機器は両刃の剣である。無いと情報が得られない、仕事がはかどらない。しかし悪用すると凶器化する。人間関係の希薄さや自己主張願望といった現在社会の病理を感じられなくはないが、昔「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」というCMがあった。このフレーズが新鮮に想い出されるのはスマホを持てない年よりの僻みだけであろうか?
伊藤 克之